おしらせ


2010/08/26

Steinheil Cassaron 40mm/F3.5 VL



40mm準広角レンズ第一弾
レトロフォーカス化しないまま焦点距離を40mmの準広角域まで短縮させることができた価値ある設計
1950年頃までの一眼レフカメラ用広角レンズには40mmの焦点距離を持つ3枚玉のトリプレットや4枚玉のテッサー型が数多く存在した。現在の主流となるレトロフォーカス型タイプ(6枚玉~)が普及する少し前の事である。この頃の写真用レンズはガラス面における光の透過率が今ほど高くないため、シンプルな光学設計で光の内面反射(ゴーストやフレア)を最小限に抑えることのできるトリプレットタイプやテッサータイプは画質的に優位な設計であった。当時はその存在価値が高く評価されており、発展途上であったレトロフォーカス型広角レンズに比べ、ヌケの良さ、コントラストや階調表現の鋭さで勝っていた。これらの設計は大口径化が難しく、大きくボケる明るいレンズを造るには不利な設計であったが、光軸方向の厚みがないので、ミラーの可動部を確保しながら焦点距離を40mmの準広角域まで短縮させることができた。
しかし、その後のコーティング技術やガラス素材の進歩により光の透過率が向上すると、より複雑な光学系においても高い画質が維持できるようになり、広角レンズの設計の主流は大口径化が容易で焦点距離をさらに短縮できるレトロフォーカス型へと急速にシフトしていった。
今回入手したのはドイツ・ミュンヘンの中堅光学機器メーカーSteinheil社が1951年に発売したCassaronという40mmのトリプレット型準広角レンズだ。同社はレンズの生産を専門とするメーカーで、極めてコンパクトなレンズやハイスペックなマクロレンズなど、個性豊かな製品を製造していた。Cassaronもコンパクトかつ軽量で、重量はたったの104gしかない。ただ小さく軽ければいいというわけではなく、絞り羽根の数はしっかり8枚もあるし、フォーカスリングが使いやすく出っ張っているなど、取りまわしの良さや機能を優先しているよく出来たレンズだ。フィルター枠が銀色に装飾され、個性的でお洒落なデザインに仕上がっている。絞り機構はプリセットタイプが採用され、絞りリングには各指標においてクリック感がなく、絞り羽根は実質的に無段階で開閉する。同社からはほぼ同じ時期に3枚玉のCassar S 50mm/F2.8というトリプレット型標準レンズや、トリプレット型をレトロフォーカス化したユニークな4枚玉のクルミゴン35mm/F4.5という広角レンズも発売されていた。いずれもデザインが良く似ており、パンケーキ型と言ってよい超小型仕様のレンズ達である。なお、レンズ名の由来は同社の創業者C.A.Steinheilの頭文字(C+A+S)から来ており、CassarやCassaritなども同様である。
40mmという微妙な焦点距離が生まれた経緯や意義はともかくとして、本品はフルサイズセンサーを搭載した一眼レフカメラにつけてもAPS-Cセンサーの一眼レフカメラにつけても、標準レンズとして使用することのできる使いやすい画角を提供してくれる。個性的なデザインとコンパクトさ、ユニークな焦点距離など、改めて存在価値が見直されてもいい魅力的なレンズといえるだろう。
光学系は3群3枚, 絞り羽根の枚数:8,絞り値:F3.5-F16,重量:104g,最短撮影距離:0.7m,フィルター径34mm。絞り機構はプリセット。対応マウントはM42とEXAKTAの2種で本品はEXAKTA用
  
入手の経緯
本品は2010年5月22日にeBayを介して、米国ラスベガスの総合中古業者(カメラ専門ではない)から135㌦の即決価格で購入した。送料込みの総額は149㌦(13500円位)であった。商品の状態はMINT+で紹介写真も非常に鮮明。出品者も解説で「パーフェクトな状態。これ以上綺麗な品は出てこないだろう」と自信満々に言い切っていた。国内相場は2万円程度、eBay相場は状態が良ければ200㌦位の品なので、これはとチャンスと判断し「BUY IT NOW(即決購入)」のボタンを押したところ、eBayのエージェントが「購入中のバイヤーがいるので早く送金手配を終えた者の品となる」という緊急性を示してきた。「おー。これはいかん」と思い、せっせと払い込んでしまった。1週間後に届いた商品は確かに美品レベルであったが、レンズ内に埃の混入が目立っていた。

撮影テスト
描写には良くも悪くもシンプル構成のレンズに良くある性質が滲み出ている。1950年中ごろの製品としてはヌケが良くハイコントラストな長所と、中間階調が奮わず硬質な撮影結果になりやすいという短所を持つ。階調変化はなだらかさを欠き、明部から暗部へストンと落っこちてしまう傾向がある。こうした欠点は柔らかい階調変化を示す富士フイルムのPRO400Hや最近のデジカメに搭載されているダイナミックレンジ拡張機能(HDR合成等)を利用することで、いくらか改善すると思われる。収差の補正がやや過剰気味のようでボケに滑らかさがない。開放絞りでは距離によって2線ボケの発生することがある。一段絞れば素直なボケ味だ。発色はやや淡白。

F5.6 カリッと硬い階調変化によって鋭い描写に仕上がる
F11 小さな口径や少ない構成枚数のおかげであろうか?モノコート仕様にもかかわらず厳しい逆光でもフレアは出にくい
F3.5 開放絞りで撮影すると距離によっては2線ボケが発生し、滑らかさを欠いたやや目障りな描写になる。発色はやや淡白かな?
F5.6 少し絞っておけば素直なボケ味だ。こちらも背景のシャドー部の階調表現に粘りがなくストンと落ちてしまった
F3.5 近接では収差の影響からか柔らかくボケ、目障りにはならない
F5.6 トリプレットにしては、なかなかいいレンズではないだろうか


ハイダイナミックレンジ(HDR)合成機能を用いれば階調変化の弱点を補うことができるか?
最近のデジイチに搭載されはじめたHDR合成機能とは露出の異なる写真を何枚か連射で撮影し、複数の画像を合成処理することでダイナミックレンジを拡張する新機能だ。この機能を上手に用いれば本レンズにおいても中間階調が豊かになり、画質が大幅に改善するかもしれない。HDR合成機能はCASSARONの救いになるだろうか。...comming soon!

撮影機材
Sony NEX-5 + Steinheil Cassaron 40/3.5

2010/08/07

A.Schacht Ulm Edixa-S-TRAVELON-A 50mm/F1.8 (M42)


忽然と現れ僅か22年間で姿を消した
謎のメーカーA.Schacht社の標準レンズ

Travelonの説明書
光学系が記されている
A.Schacht社はAlbert Schacht(アルベルト・シャハト)という人物が旧西ドイツのミュンヘンに設立した中堅光学機器メーカーだ。同社ついては情報が極めて乏しく、あまり多くのことは伝わっていない。
Schachtは元々、イエナ市のCarlZeissに経営管理者(Betriebsleiter)として在籍していた。1909年、ドイツ経済が不況になりCarl Zeiss財団が傘下のカメラ製造部門Carl Zeiss Palmosbau(カール・ツァイス・パルモスバウ)社を放出すると、パルモスバウは幾つかの中小光学機器メーカーと合併してIca AG社となった。同氏もパルモスバウとともにIca社へと移籍するが、Ica社は1926年にZeiss Ikon社の設立母体となることで再びCarlZeiss財団に吸収され、Schachtも同年から経営管理者としてZeiss Ikonに従事している。同氏はその後、1939年にレンズメーカーのSteinheil社へと移籍し、テクニカル・ディレクターとして1946年まで在籍した。
Schacht自身に経営者として独立する機会が訪れたのは1948年で、ミュンヘンにA.Schacht社を設立しカメラ用レンズの生産を開始した。初期の製品はプリセット絞りで重量感のある真鍮製クロムメッキ仕上げのレンズであり、後にアルミ合金が採用され軽量化がはかられた。会社は1954年代にドナウ地方のウルム市に移転したと言われている。ただし、1959年や1960年代に移転したという説もあり確かな事は判っていない。1950年代に製造されたとみられるアルミ鏡胴のレンズにはUlmと明記されている個体があるため、移転時期はゼブラ柄のレンズが登場する前の1950年代であったと思われる(会社の拡張に伴う段階的な移転の可能性も考えられるわけだが・・・)。1960年代に製造されたゼブラ柄の製品からは絞り機構が自動/手動の切り替え式になっている。対応マウントにはEXAKTA, M42に加え、何とLeica L対応の正式認定を受けている。また、シュナイダー社から生産の委託を受注するなど、技術的に高い評価を得ていたようである。焦点距離は35mmから200mmまで多数のバリエーションが用意されるようになった。中古市場に流通している同社のレンズはこの頃に製造された個体が多く、経営的にはこの頃が最も拡張した時期であったと思われる。レンズの製造は1970年まで続いていたが、最後はシュナイダー社に吸収され姿を消してしまった。
今回入手したのはA.Schacht社が1961年に製造したEdixa-S-Travelon-A(トラベロン)という名のガウス型高速標準レンズである。A.Schacht社が製造したレンズの中では開放絞り値がF1.8と最も明るい製品となる。同社のブランドには他にもテッサー型のTravenarとマクロレンズのM-Travenar, ベローズ用レンズのTravegar, レトロフォーカス型レンズのTravegonなどがある。中でもTravelonは市場に流通する個体数が少なく、M-Travenarと並び同社の製品の中では入手が困難なブランドの一つである。鏡胴の側面には絞り機構の切り替えスイッチがついており、スイッチの動作に連動してマウント面近くの丸枠内の表示がA(オート)とM(マニュアル)に切り替わる。また、絞り冠に連動して被写界深度のゲージ表示が変化するなど、シュナイダーの製品(Edixa-XenonやEdixa-Xenar)を連想させる凝った仕掛けを持っている。


鏡胴側面には絞り機構のMANUAL/AUTO切り替えスイッチがついており、スイッチの動作に連動してマウント面近くの丸枠内の表示がAとMに切り替わる。また、絞り冠に連動して被写界深度のゲージ表示が変化する
重量(実測): 190g, 絞り値: F1.8-F22, 絞り羽根数: 6枚, フィルター径:49mm, 最短撮影距離: 0.5m, レンズ構成: 4群6枚ガウス型,M42-mount, マウント側面にはレリーズ穴が付いている。レンズ名は「遠くへ」または「外国への旅行」を意味するTravelが由来である

★入手の経緯
本品は2010年2月14日にポーランドの中古カメラ業者が即決価格120㌦で出品していた。ガラスはmint-コンディションで完全動作品とのこと。95㌦に値切り交渉したところOKが出た。送料が40㌦と高めだったので総額は135㌦となった。ところが届いた品は絞り羽根の開閉に難点のある不良品であり、絞りスイッチをマニュアル側にすると指標よりも一段深く絞られてしまうという欠陥を持っていた。スイッチをオートにすれば絞りは正しく開放状態になってくれるので実用面で問題なかった。ややレアなレンズのため返品後の再入手には時間がかかりそう。直ぐに使ってみたかったので今回は返品せずに引き取ることにした。

★撮影テスト
本レンズの特徴は透明感のあるヌケの良い描写とソフトな結像、素直なボケ味であろう。開放絞りでやや収差を残す無難な設計を採用しており、近接撮影時にはピント面がやや解像力不足になる。また屋外で撮影する時には被写体の周りに薄らとハロ(光の滲み)が発生することがある。2段絞ればどの距離でもスッキリとシャープな結像に変わりハロも消える。逆光に弱く簡単にフレアが発生するという噂を耳にしていたが、今回入手した個体はモノコートレンズ相応の逆光耐性であり、このレンズが特別に弱いという印象は受けなかった。古いレンズなのでコーティングやガラスの状態による個体差があるのかもしれない。日差しの強い日に屋外で使用してみたところ、しっかりハレ切り対策を行っていたためか、コントラストは適度に高く、良好な撮影結果が得られた。アウトフォーカス部の結像は目立った癖もなく概ね良好で、ボケ味は柔らかめだ。距離によっては周辺部の像が僅かに流れることがあるが、こちらも大して気になる程ではない。発色は青に転びクールトーン気味になる傾向がある。大きな欠点のない安定感のあるレンズといえるだろう。以下には銀塩とデジタルカメラによる作例を示す。

銀塩撮影による作例
KODAK GOLD 100 + PENTAX MZ-3 +PENTACON Metal Hood 49mm径

F5.6 銀塩撮影(KODAK GOLD 100): 溶けるような柔らかいボケ味を楽しむことができる。発色はクールトーンであり、青みを帯びる黄色が薄まる傾向がある
上下段ともF5.6  銀塩撮影(KODAK GOLD 100): 快晴の天気だったので深いフードを用いてしっかりとハレ切りをおこなった。強い日差しにもかかわらずコントラストは適度に高く良好な結果が得られた
F16  銀塩撮影(KODAK GOLD 100): こんどは逆光撮影にトライしてみた。内面反射を抑えるために深く絞って撮影した。ゴーストは出たがフレアはそれなりに抑えることができたので暗部は落ち着きを保っている

デジタルカメラでの作例
Sony NEX-5 + HAKUBA RUBBER HOOD + アダプター( M42→EOS and  EOS→NEX E)


F1.8 NEX-5 Digital,AWB:手前の輪にピントを合わせている。開放絞りで近接撮影を行う場合、ピント面の結像はだいぶ甘くなる。ボケ味は柔らかく、素直で扱いやすい
f2.8 NEX-5 Digital,AWB:上の写真の石像の顔の付近を3通りの絞り値で撮影したものが下の写真だ
NEX-5 Digital,AWB:石像の顔の部分の拡大画像。上段から絞り値F1.8, F2.8, F4で撮影した結果となる。絞り解放(F1.8)は結像が甘く、コントラストもやや低下気味だ。石像表面の凹凸部分が白っぽく締まりがない。輪郭部には薄いハロがまとわりついている。絞り込むにつれシャープになりコントラストも向上している。1段絞ったF2.8でもハロは完全には消えていない
F2.4 NEX-5 Digital,AWB: こちらも綺麗なボケ味だ。フィルム撮影では全く気になることはなかったが、デジタルカメラでは被写体の輪郭部に色収差が出ている。古いレンズに最新の受光センサーという組み合わせなので仕方あるまい
F11NEX-5 Digital,AWB: 遠景の撮影結果。これくらい絞っておけば周辺部までシャープだ
F2.8 NEX-5 Digital,AWB: 最短撮影距離(0.5m)ではこれくらいの倍率になる
F3.5 NEX-5 Digital,AWB: この程度の2次光源ならば深く絞り込まなくてもフレアの心配はいらない
F3.5 NEX-5 Digital,AWB:
F3.5 NEX-5 Digital,AWB: 新型デジカメNEX-5にSchneider jsogonを装着しスナップ撮影に行って参ります

1年間使用したEOS kiss x3を売却しSONYの新型ミラーレス一眼NEX-5を入手した。EOSには電子接点が機能しないレンズを使用する場合に露出が大きく暴れるという癖がある。絞り込むほど撮影結果が明るくなってしまうため、露出をマイナス側に補正しなければならなかった。新たに入手したNEX-5にはそのような癖はなく、とても快適だ。ルンルン♪